「……あんた、何で!」
彼女の鋭い声が響く。周りが息を飲み、空気が張り詰めた。
「ふっ」
それに対して臆することもなく、逆に鼻で笑った。そして、僕の腕に自分の腕を絡んできた。白い彼女の腕の感触に僕は思わずたじろいだ。
「――!やめて!」
それを見た彼女が弾幕を放ち、僕との距離を裂いた。
「うぁ!」
思わず声に出て僕は尻餅を付く。
「彼に触らないで!春菊は、私と――」
「貴方とは何もなかったのよね」
放たれた弾幕をものともせずに彼女は僕の瞳をまっすぐ見た。
「私の愛してくれているのよね?私が愛おしいのよね?彼女はただの遊びだって、貴方は言ってくれたじゃない」
彼女がニヒルに笑い、白い指を僕の顎をなぞった。
「そうでしょう?春菊――?」
「止めて!!」
再度弾幕がはなたれる。
「あんた、しつこい!」
それを彼女は肉薄。瞬時によけて逆に弾幕を打って返り討ちにした。
「――くっ!」
「貴方が私に弾幕ごっこで勝ったことある?」
彼女は不気味に笑い、そしてゆっくりと彼女に近づく。
「春菊は弱い女は嫌いよねー」
一歩、一歩、彼女は近づく。そして、倒れる彼女の胸ぐらをつかんで持ち上げた。
「いい加減に諦めなさい。彼は私の物よ」
「彼を物扱いしないで!!」
「――っ」
パン!乾いた音が響いた。
「やってくれるじゃない……このメス豚ぁ……!」
「――ぐぅ……がぁ……」
締め上げる。苦しそうに彼女が息を漏らす。
マズイ!もうやめろ……!声をだそうとしてもだせない。なぜ、こんな……!
この状況に体がついていってない。思考が絡まる。
「春菊が必死にお願いするから、今まで黙っておいたけど。きーめた。ここであんたを殺すわ」
何を……!?
驚きのあまり言葉を失う。殺す……?なんで……そんな……。
彼女が腕を振り上げる。鋭く光る爪が彼女の首を捉えた。
「ぐぁ……ぐ……」
必死に抵抗している彼女の腕からは離れない。
「やめ……ろ……!」
「ふふふふ。じゃ、ね。せいぜい地獄であの子たちにあって行きなさない」
「止めろおおおおおおおおおおおおおお!!!」
彼女の腕が振り下ろされた。
10話「金平糖」
「あれ、春菊先生?汗でびしょびしょだよ……?」
「お、おまえら!あれはなんだ!?」
息を荒くさせて僕は思わず怒鳴る。うぁ、いやな汗でシャツが……。
「「「?……おままごと」」」
「どこの世界にあんなおままごとがあるかぁああああああああ!?」
おままごとは家族ごっこ。暖かな家族を演じて楽しむ遊びの筈だ。なのにこいつらのおままごとはなんだ。やれ嫉妬やら三角関係やら、悪魔の女やら。挙句の果てには弾幕に殺すときた。
これが健全な9歳以下の子供たちが行う遊びなのか。それも妙にリアルだし、と、いうか。途中でモテお遊ばれた男どもが悲しすぎる。
あれはもうおままごとというより演劇だ。
さて、子供たちが行っていたおままごとのちょっとした内容を説明しようと思う。
ある少女が男に恋した。その少女は男とはお隣さん同士で子供のころからよく遊んでいた。子供時代には将来結婚しようと約束した。その誓いは未だ続いていると彼女は信じて疑わない。
ある少女もまた男に恋をした。その少女の美貌で寄り付く男共を鬱陶しいと思って居た時に偶々男に危ないところを助けられる。他の男共とは違った雰囲気、性格に少女は激しく恋をする。
そして、三人が互いに出会った時……という感じの――ダメだ。どう考えてもおかしいぞ。
「ちなみにこ話を考えた人は?」
「慧音先生」
「まままままままマジデ!!!!?」
あ、アカンあかんですよ慧音!?おかしいよ。それ、教育的におかしいよ……
「嘘」
「このガキィイイイイイイイイイイイイ!」
どうして、こうなったのだろうか。最初の方ではうまく行ったのに。
いや、これが本来のこいつらだというのか……!
「おまえらいつもこんな遊びしてるのか……?」
「ううん。たまに。慧音先生が居たらすぐ止めるもん。慧音先生と一緒に遊んだ時にね、顔真っ赤にしながらね。『わ、私には……』って言いながら首振ってできなかったもん」
だろうよ。
「先生はウブなんだよ」
「あはははー可愛いよねー。この前もどうやったら子供が出来るの?聞いたら顔真っ赤にして大きな鳥が子供を持って来てれくるって言いったー。そんなわけないよねー」
「……」
子供社会の裏をみました。
あぁ、こいつらが純粋に見えたころが懐かしい。
僕は今朝のことを思い出しながら涙を静かに流した。
「と、いうわけで慧音先生の変わりに今日一日は俺がおしえることになりました。知っている人もいると思いますが、寺子屋の近くで春菊を営んでいる、大貫智也です。よろしくです」
自己紹介等はもうとっくに済ませてあるのだが、今日初めてあう人も居るので軽く自己紹介をする。
「何か質問がある人―」
「はーい。慧音先生とはどんな関係ですか」
「お友達です」
「はーい。春菊先生はコレとか居るのですか?」
「いません。あと、子供がコレとか言うなコレとか」
慧音からは授業は慧音作の授業ノートに沿って行わる。一応は家庭教師のバイトも受けたことがあるが中々にひとつの教室で40人近くの子供に教えるというのは緊張するし難しいな。
学習内容としてはやはりそれなりに歳相応の計算問題からちょっとした幻想郷の歴史まで。幻想郷の歴史についてはこっちが教えてほしいぐらいだが、慧音のノートを見てなんとか授業を終える。
そして、昼休み。
給食等はもちろんながら僕が作った。
「先生―遊ぼー」
「春菊のにーちゃん、遊ぼー」
子供はかわいいなー。純粋で、無垢で。
「こらこら、順番だぞー」
何と言うか、癒される。慧音が子供が好きになる理由がわかる気がする。
「なにして遊ぶのかなー?」
「うーんとね。おままごこと!」
最初に声を掛けてくれた女の子と一緒に遊ぶことなった。しかし、おままごとか。ちょっとこの歳でおままごとは恥ずかしいなー。
「うんいいよー」
でも、まぁ遊ばないわけにはいかない。
寺子屋の庭に連れてかれる。僕の周りに子供たちが集まっているためにちょとした集団が動く。
「あ、僕もやるー」
「私もー」
「俺もー」
そうして段々と集まってきた子供たち。
「ようし、皆でやろうか」
「「「うん」」」
う〜ん癒されるぜ……
ちくしょう……!何が癒されれるだ!
僕はこれまでの経緯を思い出してちょっと昔の自分を殴り飛ばしてきたくなった。
「まさか、ここまでハードな遊びをやらされるとは……」
「ふん、お前とは遊びだったのさ……」
「非道いわ!」
そして、第二幕がまたもや始まったようです。