13話「玉露」
「今日の友は明日の敵〜♪明日の友は今日の敵〜♪唸るぜ俺のマグナムぶちまけろ俺の魂〜♪悪の敵をやっつけろ〜♪」
ジュージュー。
心地よい音が耳に入る。先ほどまでのめまいは今はない。唸る右腕、それと同時にひっくり返る卵。フライパンをもつ手は毒の影響か、少しばかり重い。だがたいしたことでもない。
「いっくぞ、いっくぞ、やっつけろ〜♪」
一昔流行ったヒーロー物のOPを口づさみ、僕は朝食を作る。
食用油で引いたフライパンの上にベーコンをのせてカリカリに焼く。肉汁が音と共に飛び出した。油が光ってベーコンが少しだけ丸くなる。
今度は豚バラ。今朝の朝ごはんは洋風にしようと思う。
「われがヒーローそれいけ〜♪」
豚等を焼き終えて、今度はパンを焼く。勿論、トースターなんてないためフライパンで焼く。
いや、しかし幻想郷で電気が通っている場所は初めて見た気がする。なんかちょっと違和感があるよなー。いつもはランプか蝋燭だったから、こういった人工的(?)な光は目が疲れる。
「おっと、危ない」
危うくパンが焦げそうになり慌ててひっくり返す。
さて、これで今朝の朝食は出来上がりだ。
今朝のメニューはベーコンエッグとバインミー。それと朝にやさしいマロンホットチョコレートだ。
チョコレートとか幻想郷じゃ初めてみた気がする。さすがは永遠亭と言ったところかな?
「……あら、良い臭いがすると思ったら」
声がして振り向くと永琳さんがパジャマ姿で立っていた。すこし服がはだけてエロスです。
「おはようございます、永琳さん」
「おはよう……貴方、毒大丈夫なの?」
「まだ少しフラフラしますけど、大丈夫です。なんか、僕料理しないと落ち着かないっていうか。こう、体が勝手に動いてしまうんですよ」
もはや職業病です。
「まぁ、無茶しないようにね。それとちゃんと薬飲みなさいよ」
「はい」
僕は大きく頷き、それを見た永琳さんが少し微笑む。
「……うぁ」
もう一人、入ってきた。小さい女の子。あれは確か因幡てゐ。イタズラ好きの困った妖怪だ。
「おはよう。てゐ。朝ごはん出来てるよ」
僕が熱を出した時にまでちょっかいをだしてきたからてゐとは何度か話した。結構純粋でいい子……だと思う。
「これ、お前が作ったウサか?」
「そうだよ」
ここまで本格的な朝ごはんは初めてだったらしく、てゐは少し嬉しそうだった。
「……何かいい匂いがする」
「うわーすごーい」
ちょっと遅れて2人方がやっと起きてきた。一方は鈴仙。もう一方はここの主でもある人だ。
ちょっとダルそうにパジャマ姿の彼女の名前は蓬莱山輝夜。かの有名な『竹取物語』のかぐや姫その人……であるらしい。
「ウドンゲも姫様も、早く座ってください。折角の朝食が冷めるわよ」
ちょっと永琳さん、嬉しそうだった。
「「「ご馳走様でした」」」
「お粗末様です」
朝食も終わりその後。僕はみんなの「美味い」という言葉を聞けてちょっとした幸福状態にあった。やっぱり美味しいって言ってもらえることは幸せだよね。
「本当に美味しかったわ。ここまで美味しい朝ごはんは久しぶりよ」
姫様もご満悦のようで、僕はちょっと照れ笑いを浮かべて答えた。
「ありがとうございます。気に入っていただいてなによりですよ」
鈴仙はどうかと見ると、顔を揺るませている。
「鈴仙はどうだった?」
「普通に美味しかったわよ。あなたにこんな才能があるなんてね」
「ありがと……さて、俺はちょっと疲れたんで部屋で横になっていますよ」
さすがにまだ毒の効力があるのか、頭が重い。全体的にダルく感じる、料理をしている時にはあまり感じなかったが、今では鉛のように重い。
薬は飲んだし、ゆっくり休みたい。
「そうするといいわ。てゐも、この前みたいに変なちょっかい出さないでね。彼は患者さんなんだから」
「……わかったウサ」
何、今のあからさまなため息と残念そうな声は。まさか本当にやって来ないよね……?
前のは本当に酷かったから、ちょっとてゐの悪戯はトラウマ状態にある。悪戯を喰らった状態が状態なだけに相当きつかったが、廊下を歩いていたらいきなり落とし穴とか、水だと思って飲んだら酒だったとか。
実際何度か死にかけたからな……。
「じゃ、俺は休みますので」
僕はその場を逃げるようにして離れた。
どうか、てゐよ。大人しくしていてくれ……。
結果的には悪い予想は当たった。ただ、被疑者がてゐではなかった。
「あのー一応は俺、病人としてここに居るんですが」
「知ってるわよ」
「際ですか……」
あれー?おかしいな、僕はさっきまで部屋で休んでいたと言うのにいつの間にか姫様の部屋なんかにいるんだ?
「貴方……確か春菊って言ったわよね」
「違う!俺の名前は大貫智「さて、春菊。貴方、なんか面白いことしなさいよ」……無視ですか、そうですか」
なんだろう、最近になって僕の名前が段々と「春菊智也」になっている気がする。
「と、言うか面白いことって……そんな突然言われても……」
どうやらこの姫様は僕をただの暇つぶしにしか考えていないらしい。僕が病人であることなんてどうでもいいのだろう。
「なによーつまんないわねーこっちは暇で暇で仕方ないのよ。なんか面白いことないのー?」
「そんなこと言われましても」
僕は困ったように声を上げた。うーん、面白いことね……。ざっと周りを見たわす。姫様の部屋。彼女の部屋は広く、向こうの世界の住人となんらかわらない部屋構成だ。それと珍しくPCがある。……なんでだ?
この部屋を見る限り、姫様はもしかしなくてもインドア派なのだろう。決して外で鬼ごっことか隠れんぼとかをやらないだろう。
なら、何がある?あやとり?しりとり?それとも――
「あ、ありましたよ。姫様」
「なにがよ」
「姫様の暇をつぶせる方法が」
僕は笑みを浮かべる。そうだ、これならいくらでも暇をつぶせる。それに皆にとっても良い方向へとつながると思う。
「姫様、料理しませんか?」