「問おう、姫よ」

「何かしら?」

「貴方は料理を舐めてるのか!?」

「あら、心外ね。これでも一生懸命に尽くすつもりよ?」

「なら、せめて軽い服装で、尚且つちゃんと髪を束ねて下さい」

「別にいいじゃない。面倒くさいわ」

「よくねーよ。まるっきしよくねーよ」

 

 

 

 

14話「餡蜜」

 

 

 

「これでいいかしら?」

 ちょっと不機嫌そうに姫様が束ねた髪と軽い服装にエプロン姿で台所に立った。なおもまだ不機嫌そうなので僕は軽く説教じみた感じで姫様に話しかける。

「いいですか?姫様。料理をする上でその格好や――特に髪なんかは重要になってくるんですよ?貴方だって自分が食べる料理に髪の毛がついていたら嫌でしょ?」

「ん……確かにねーそうよねー」

 一応は納得してくれたみたいだけれどもちょっとまだ不機嫌だ。一方的に怒鳴られたのが好かんのか、それともあの格好で料理がしたかったのか。よく解らないが、このまま険悪なムードで料理なんかしたくない。そこで僕はちょとだけ姫様を持ち上げるようにした。

「さらに言えば、折角の姫様の髪が料理について汚くなってしまうじゃないですか。服もまた然りです」

「……あ」

「それにですね。その格好の姫様も十分に美しいですよ。得にその髪型。自分は好きですけどねー」

「そ、そうかしら?」

「はいはい。もちろんですとも!」

 ちょっと姫様は嬉しそうだ。

「よし、それではさっそく始めましょうか」

「はーい」

「さて、姫様。一体何を作りたいですか?」

 本来ならば、初めて料理をやる人でも、簡単につくれてしまうみんな大好きカレーなんかがいいのだけれども。如何せん、この幻想郷にカレーの素なんかない。スパイスからつくらくちゃいけない。

 なら、他の料理は?と言うとイマイチどれもぱっとしない。なら、いっそうの自分が作りた、食べたいと思える料理を作らせた方がいいのではないか?と思ったのだ。

「そうねーじゃ、フカヒレでも――」

「ストップ。ダメ。それはだめ。っていうか、姫様。一体何処でフカヒレなんて代物知ったんですか」

「あら、作れないの?」

「無理です。そもそも食材すらありません!」

「なら、トリフ――」

「姫様、絶対ワザとでしょう」

「あら、これもダメなの?」

「ダメに決まっているじゃないですか!?そんな代物ここにあるわけないじゃないですか!」

 だ、ダメだこの姫様。この人の料理は一般家庭に並ぶ料理からかけ離れている……!

「ひ、姫様は好きなものとかないんですか?」

「うーん……?そうね、肉じゃがとか案外好きよ」

「なら、肉じゃが作りましょうよ!」

「えーそんなの普通すぎるわ」

 何を言うか、この姫様は……。

 僕はいかに料理を初めて作る上でこういう初歩的かつ、家庭的な料理が大事かを、ゆっくりと説いた。姫様はなんとか納得してくれたようで、取り敢えずは肉じゃがを作ることにした。

 なんともまぁ、結論から言えば、姫様に料理をおしえることはすごく大変だった。ものすごく、大変だった。

 包丁を握らせて僕がゆっくりと気を使ってジャガイモの切り方を教えてあげると、

「いいですか、包丁はこう持って、軽く力を入れて一気に押し出すんです」

「ふむふむ。こう、かしら」

「そうそう。上手いですよ、姫様。そして、ゆっくりでいいですから、確実にジャガイモを切るんです」

「こうね……む?中々に切れないわね……えい!」

 ザク!

「あ」

「ぎゃああああああああああああああ!?姫様!指!指!」

 自分の指を切り落とすという惨事を起こし(このときは本当に失神しかけた。姫様が蓬莱人だというのはこのときに初めて知った)さらに、火を扱わせれば、

「いいですか、姫様。煮立ったら火を抑えてください――」

「わかったわ……それにしても中々煮立ったないわね……もっと強くしようかしら」

「へ?ちょっと……!?姫様!?」

「あ、火柱が立ったわ」

「ブレイク!ブレイク!火事になるわ!」

 鍋を全焼させ、永琳亭でちょっとしたぼや騒ぎを起こすほどでもある(何故か幸にも永琳達には見つからなかった)

 また、調味料を使わせれば、

「いいですか、調味料には大さじ小さじとありまして、このスプーンで量がわかるようになっているんです」

「このノート(智也作初心者でもわかる料理ノート)にかかれている適量っていうのはなにかしら?」

「あぁ、それは自分の感覚で入れてくださいよーってことですよ。人によって甘いのが好きだったりしょっぱいのが好きだったりするので」

「なるほどね、じゃ、このくらい入れようかしら」

 ドサ!

「ちょっと!?姫様!?砂糖をそんなに……!あぁ、貴重なお塩まで……」

 ビン丸ごと一個使おうとする始末。

 はっきり言って疲れます。はい……。

 しかし、根気ず良く丁寧に姫様に教えていく内に段々と感覚が付いてきたようで、最終的にはやっとまともな味になってきた。

 姫様も作っていく内に料理の楽しさに気がついたようで。

「そうそう、そこで分量を間違えないようにしてくださいね」

「わかったわ」

「んで、そこのジャガイモを――」

 伊達にジャガイモ30個の犠牲は(何故こんなにジャガイモがあるのだろうか)無駄ではなかったようで、ジャガイモをきる手付きも大分にマシになっていた。

「こうかしら」

「あ、そこはもっと丁寧にしてください。ちゃんと食べさせる相手のことも考えてやってくれると尚更グーです」

「なら、こう?」

「おぉ!そうですそうです!」

 そして、料理開始から2,3時間程。

 ようやく姫様の初手料理肉じゃがが完成。

「どうかしら……?」

「……うん!とってもおいしいですよ」

 僕が笑顔でそういうと彼女もまた笑顔で喜んだ。ちょっとジャガイモやら人参やらは不細工だけれども、ちゃんと皆食材が生きている。味も悪くない。欲を言えば、もう少し薄いほうがいいのだが……まぁそこは好みの問題も入ってくるし、まだ正確な味の配分なんて調整することなんて出来ないだろうし。

 ちょっと凄まじい出来事が色々あったけれども、姫様は一応よろこんでくれたみたいだし

「料理って……意外と楽しいものなのね」

「気に入ってくれて良かったです。でも、本当の楽しみはこれからですよ」

「え?まだ他になにかあるの?」

「えぇ、とっておきの幸せってやつですよ」

 そう、料理を作ったものにしか分からない最高の瞬間がまだ残っている。

 

 

 

 


「これ、貴方が作ったの……?」

「そうよ、凄いでしょう」

 強がってみせたけれども、私自信ちょっと不安だった。春菊が言うには最高の瞬間というのは誰か大切な人なんかに自分が作った料理を食べてもらうということらしい。確かにちょっと嬉しいが、同時にすごい不安と緊張がある。

「食べてみて」

 永琳が箸を持って肉じゃがを口に入れる。ちょっと不細工なジャガイモ。春菊の見せてくれたジャガイモより形は変だ。でも、春菊の言うには形なんかどうでもいい。大切なのは気持ちだって言ってくれた。

 永琳の口がゆっくりと動く。ゆっくりと味わってくれているようだ。

 ど、どうなのかしら……。

 まだ続く間に私は嫌な汗を書く。も、もしかして気に入らなかった……?

 やがて永琳の口がゆっくりと開く。

「驚いたわ……輝夜、貴方これ一人で作ったの?」

「えぇ、そうよ……で、どうなの?味は」

「美味しいわ。すごく美味しい……!」

 永琳からその言葉を聴けた時、私は胸の辺りが暖かくなった。

 これが春菊の言っていた最高の瞬間ってやつなのね……。確かにすごく幸せな気分だ。

「えへへ、有難う、永琳」

 美味い美味いと、何度も言葉にして私の作った初手料理はすべて食べられた。

 

 

 

 


「春菊、春菊!」

 すぐさまに彼の姿を探す。彼は台所で片付けを済ませていた。

「姫様、どうでしたか?永琳さんはよろこんでくれましたか?」

「えぇ!凄く喜んでくれたわよ!貴方が言う最高の瞬間って、とても幸せな気分になれるのね!」
 
 私自信、未だちょっとした興奮が冷めない。初めての料理もそうだ、自分で何かを成し遂げてそれを褒めてもらえるというのは、本当に気分がいい。

 彼は笑って答えた。

「その気持ち、本当に大切なものなので、思い出にしまっておいてください。そして、決してその気持ちを忘れないでくださいよ」

「えぇ!わかったわ!」

「姫様、料理、どうですか?続けます?」

 お玉とフライパンを両手で持って彼は微笑み、私にそういった。

 私は彼の手からそれらを奪いとり、私も同じく笑顔で答えた。

「勿論よ!」