「鈴仙や」

「……なによ」

「最近、肩が凝ってのー揉んでくれるんかのー」

「なんで、私がアンタの肩揉まなきゃならないのよ」

「……(ジー)」

「……!わ、わかったわよ」

 ギュギュ。

「うー極楽、極楽」

「……えい」

 ゴキッ!

「ぎゃあああああああああ!?えーりん、えーりん助けてえーりんんんんんんん!?」

「あれーどうしたんですかー春菊サマ―(棒読み)」

「この、兎野郎……」

「私は、女です」

 

 

 

 

 

 

16話「冷や奴」

 

 

 

 


 永琳亭に入院(?)してもう4日が経った。永琳さんが言うにはもう大丈夫だろうから明日には退院できるらしい。

「……よく、考えたら俺、春菊ほったらかしじゃね?まずくね?」

 と、思ったものの、それを確認できる術もなくとりあえず今は、この状況をどうにかしたいと思っているしだいであります。

「……」

「……(キッ!)」

 その赤い目で睨まんでください。

 僕は隣にいるウサ耳ブレザーミニスカ女兎の熱い視線を軽く受け流している。実はこの娘は僕の言う命令に何でも従わなければならないという状況に陥って、軽くストレスがたまっているらしい。

 一見として僕に取っては美味しい――いや、一人(?)の女性をなんでも要求できるという状況は男に取って、とてつもなく素晴らしい状況なのだろう。

 でも、如何せん肩を揉ませれば(悪戯心で)関節ごと持っていこうとするし、それでいて何かとこちらを睨んでくるから、空気が悪いの重いの。

「れ、鈴仙……?」

「なによ、今度は何をする気?」

「なんか、その言い方だと俺が何かしたみたいな風に聞こえるよ」

 他の人が聞いたらなんか誤解されています可能性がある。と、言うかてゐはなぜにこのような罰を与えたのだろうか。下手したら――いや既にだが、僕としてこれも罰みたいなものだ。しかも、何を考えて――何も考えてないだろうな。

 いや、でも僕は仮にも男の子だよ?こう、意識してしまうこともあるので……。

「いま、卑猥な妄想したでしょ。この変態」

「……」

 危うく桃色の世界へと思考を広げそうになったのを、鈴仙の一言で断ち切る。我がジョニーよ、まだ起きるのではないぞ。

「ホント、人間って野蛮だわ……特に男ときたら……」

「……そんなに褒めんなよ。照れるだろ」

「褒めてないわよ!」

 野蛮という事はつまりワイルドってことだよね。うん、男のロマンでもあるぜ。

「そういえば」

 ふと思い出したように僕は声を上げる。

「ケーキ、美味しかった?」


「けーき?……あぁ、あの白い食べ物の事?」

「そう、あれ美味しかった?」

「何よ、嫌味?」

 またもや赤い目でこちらを見てくる。手を振って「ちがうよ」と答えて僕は苦笑いをする。

「食べてくれた人に、俺が作った料理の味を純粋に聞いてるんだよ。ケーキとかは専門外で食材や調味料もあんまりなかったからさ。また作る時のための参考」

「へー、まるで料理人みたいね」

「一応は料理人です」

 あら、そうなの?と意外そうにした後に鈴仙はあのケーキの味を思い出してくれた。

「そうね、私はあのけーきとやらは美味しかったと思うわ」

「甘すぎなかったりしなかった?」

「別にいいんじゃない?私は好きだけど」

 耳コピならぬ味コピだったから、僕の方の味見では少し甘すぎてしつこいかなと思ったけれども、鈴仙は「美味しい」と言ってくれた。

 それに姫様とてゐも美味しいって言っていたから多分、大丈夫だろう。今度春菊にもデザートとしてだいしてみようかな。

「それにしても、あなたが料理人とはねー」

「あれ、永琳さんとか姫様とか、何にも言ってなかった?」

「聞かされてないわよ……まぁ料理人ならあれだけ上手いのも納得いくかな」

 なにやら納得したご様子の鈴仙。

「……少し聞いてもいいかしら」

「なんだよ」

「貴方、なんで料理を始めようと思ったの?」

「……そんな事聞いてどうするよ」

「別に、男が料理なんて物珍しいからよ」

 ……珍しい、ね。

 多分鈴仙は純粋に聞いてきているのだと思う。永琳亭には女性しかいないから男児が料理なんて作っているところなんて天然記念物なんだろう。

 なんで、か。

「親父とお袋が原因かな」

「貴方の両親?」

「そう、俺たちは『料理』でしか会話が出来なかったからさ。自然とこう出来あがったんだよ」

 その含めた意味を悟ったのか、それとも言葉が出なかったのか、鈴仙は口を閉じた。でも、すぐに口を開く。

「貴方、料理やってて楽しいの?」

「もちろん。楽しいに決まってる。でも、さ――」

 僕は考える。楽しいよ。料理は楽しい。いつかあの2人に、春菊の爺さんに追いつけたらなと思う。そのために僕は前に進んできた。

 けれども、

「やっぱり、辛くなる時もある」

 たまには後ろを振り返りたくなる。

 

 

 

 だって、料理が僕の父と母を殺したのだから。

 

 

 


「そう……」

 鈴仙は何も聞かないし、何も余計な事は言わない。それは彼女なりの優しさだろうか。人間嫌いをしている兎。やっぱり彼女にも黒い過去があるのだろう、僕にもそういう過去がある。

 でも、それを引きずるか、持ち歩くかは人それぞれだ。

「あーはいはい。辛気くさい話は終わり!」

 僕は立ち上がる。そして大げさにひとつあくびをした。

「なんか薬のんだあとだから眠たくたっちまった。俺はちょっと寝ておくから晩飯までには起こしてくれ。それが今日、最後の命令な」
 
 僕が笑いながらそういうと鈴仙は呆れ顔で肩をすくめてこういう。

「仕方ないわね、春菊サマ」

 

 

 

 

 

 

「俺は、晩飯前に起こせと言った筈だが……?」

「あははは……忘れてました」

「この兎野郎―!!!」

「だから、私は女だってば……きゃあ!?この変態野郎!!」
 
 入院が2日延長させられました。