「ささっ、何か一言どうぞ!」
「あ、妹紅。それ今日作った試作品だからちょっと食べてみて」
「う、うん」
「なるほど、なるほど。『おれの料理は世界一だから、どの店にも負ける気がしない』と……では、最近人里で有名な『里』についてどう思いますか?」
「で、どうよ?」
「あ、うん。い、いけるんじゃないかな……?」
「そうかーよかったよかった」
「なるほどー。『あの店よりおれの店のほうが絶対に美味い、と。負ける気が全然しない』と……あ、それ私にもいいですか?お昼まだなもので」
……。
「……誰だお前?」
19話「揚玉」
「これはこれは、私、清く正しくがモットーの射命丸文と申します。以後お見知り置きを」
「これはこれは、どうもご丁寧に。俺はこの春菊の店主を務めています大貫智也と申します」
さて、昼下がりのいつもの春菊。今日はちょっとした試食会のため、暇そうに空を見上げていた妹紅を捕まえて試食させていたところに、なにやらいきなり変な女性が入ってきました。
この人、射命丸と言うらしいです。
ん?どっかで聞いたことあるよーな。
「射命丸……文?どっかで聞いたことあるな」
僕が首を傾けると射命丸さんはほほうと呟いた。
「そう――確か、取材だネタだと言っては異変や事件なんかをより一層ヤヤコシクする新聞屋って聞いたことが――」
「それはきっと違う人でしょう」
間髪入れずに否定されて僕はたじろぐ。
「それに、あることないこと新聞に書いている信用のできない天狗だって――」
「失敬な!私は真実しか書きません!清く正しく!それがモットーの文々新聞です!」
と、申すこの天狗。噂の天狗がまさか女の子でこんな人間臭いとは思わなかったけれども。(ここの妖怪は何故か人間くさい輩が多い)
「それで、その清く正しい文屋さんは何をしにうちに来たのかな?」
「もちろん、今幻想郷に新たなる風を吹く料理人春菊智也について取材をさせてもらいにきたのですよ」
「違う!俺の名前は大貫「それで春菊さん、取材の件受けてくれませんか?」
もう、俺の苗字春菊に変えていいかな?……なんか、みんな俺の苗字をどうしても春菊にしたいらしいし……。
「智也、辞めておいたほうがいいわよ」
僕が最近僕の苗字に対する皆の態度に本気で改名を考え始めていたとき、妹紅が少し呆れたようにして射命丸さんを見て肩をすくめた。
「こいつの新聞みたことあるの?あることないこと書いて面白く、大袈裟に書くのよ?それであなたの店の評判が悪くなったらどうするのよ」
「あることないこととは失敬な!清く正しく!文々新聞!それが私のモットーですよ」
「何が清く正しくよ、あんたこの前の異変だって――」
なにやら2人がヒートアップしてしまいました。本人置いておきぶりで何やってるんだが。
2人が争っているうちにさっさと厨房に戻って僕は料理を再開する。
妹紅に試作品として食べてもらったのは、肉料理。
せっかく萃香から肉譲ってもらっているのだが、案外余る場合がある。ここでは結構魚が主食が多いからだと思うが、基本川魚は焼かないと使えないから料理もそれなりに限られてくる。
そこで、ここは肉を中心に料理を作ってみようと思い、余った肉で色々試してみたのだ。
そして、今からつくろうと思っているのが、その中のひとつがソーセージ。
ソーセージは向こうだと全部機械で作られるが意外と手作りで作られる場合もある。
まず、豚肉の赤身ひき肉とバラひき肉をばちにいれてよくする。塩とこしょう、牛乳を加えてよくまぜる。そして、おろしたたまねぎ、にんにく、かたくり粉を肉とよくまぜる。
「よっ!」
まな板の上に用紙を置いてさっき混ぜた肉を叩きつけて空気を抜く。さて、一応は私は料理人、そして春菊は料理店。作るなら本格的に創りたい。
先程の肉の上に紅茶とさとうを散らす!
これは結構使われる手だけれども、散らす時に紅茶の分量をあやまると結構匂いがきつくなる。
まぁ、本来ならばティースプーン1くらいだからスプーンさえあれば楽にできるのだけれども。さて、あとは焼くだけなのだが。普通にソーセージを作るならば、そのまま金あみにのせてフタを締めて焼けばいいのだが、如何せん僕が作るんのは本格派。本格的につくるには何が必要か、何をすればいいのか。
僕ならば――いや、おそらくは誰もが『羊の腸』を使うだろう。幻想郷では幸いにも羊は飼育されているので、羊の肉、綿、腸などは手に入りやすい。
さて、取り掛かるか。
「ナニしてるんですかー?」
ふと、声が掛かって僕は後ろを振り返る。見ると先程まで険悪なムードで口論を繰り返していた妹紅と射命丸さんが厨房に入ってきて僕の作業を覗いていた。
「あぁ、ソーセージをね、作っているんだよ」
『そーせーじ?』
声をあわせて首をひねる2人。
「まぁ、見てな」
僕は手元の羊の腸を手に持ち、それを水にさらす。
「……それ、なんですか?すごい匂いですけど……」
「羊の腸」
『……』
腸を水にさらすのは、色々な役がある。一応は匂いや腸をやらわくするためだ。まぁ、酒なんかにつけてもいいと思うんだけども。
腸の橋にノズルなんかを付けるのだけども、そんあ便利アイテムここにあるわけないので、適当に代役を用意する。しぼり袋すらないために結構手間をかけて腸にひき肉を入れていく。
「……やってみる?」
『いや、遠慮しておきます』
なんだか、すごく嫌な顔された。
確かに最初はこの感触が気持ちわるいし、それに慣れないことしたもんだからその次の日あたり胃を痛めたけれど、慣れれば気持ちいものだと思うけど。
腸にいれたソーセージを鍋にいれてフタをしめる。さぁ、あとは焼かれるのを待つだけだ。
「お、おいしいの?それ」
「俺が作るものだぜ?初めて作るならいざ知らず、マズイわけねーよ」
妹紅が羊の腸を見ながら言うので、僕は肩をすくめた。
ソーセージが焼きあがり、早速僕は2人に試食してもらうことにした。本来なら妹紅だけだが、ついでだし、一人より二人のほうがより効果的だがからな。
「で、どうだ?」
味にクセがない普通のソーセージにしているつもりである。ただ、あまり本格的な――僕が知っているソーセージの作り方とは少し異なるために味が変だったりするかもしれない。そのための試食会でもあるのだが。
「あら……意外と美味しいです」
初めて僕の料理を食べた射命丸さんが驚きの意を上げて不思議そうにソーセージを見た。
「こんな気味の悪そうな食べもの絶対マズイと思ってましたから……」
「失礼な」
確かに羊の腸に入れる料理なんて初めて見た人なら確実に気味悪がれるかもしれんが。
「妹紅はどうだ?」
「うん。いいと思うわ。お酒なんかにも合うんじゃない?」
どうやら好評のようで。僕も一つソーセージを摘まんで食べる。
うん、我ながらいい出来だ。ただ、まぁ、当たり前のことなんだが、向こうで作ったほうがうまいな。
「して――」
ソーセージを食べながら僕は射命丸さんの方を向いて口を開く。
「射命丸さんは俺に何か用があったみたいだが……?」
どうやら、ソーセージが気に入ったようでその味に浸りながら黙々と食していた射命丸さんが当てて甲で口をぬぐい、ソーセージを飲み込んで僕の質問に答える。
「そうでした。私ったらつい、ソーセージの味に酔ってしまって――私、この幻想郷で文屋をやっておりまして、よろしければあなたとこの春菊を取材させてもらえはしなでしょうか。あ、それと私のことはどうぞ文と呼んでください。」
「それ、さっきも言ってたな」
「えぇ、ですからどうです?受けてはくれませんか?取材。決してあなたの悪いようには書きませんから(っていうか、そうでも言わないと隣の人の視線が)」
チラリと妹紅を見る。先ほど悪評が云々カンヌンとか言っていたが――。
妹紅が僕の視線に気がついて、ちょっと溜息を落として手を振っていた。
「(受けたほうがいいみたいよ。彼女、取材受けるまで帰らないとか言っていたし)」
「(別に、俺みたいなのを取材しても面白いことなんてないだろ……)」
「(……外来人で今人里を賑わす料理人。これだけあれば十分に面白いわよ。彼女にとって。どうやら本当に悪評も書く気なんてないみたいだし)」
「(はぁ〜ったく)」
妹紅と意思疎通を果たしたのちに僕は小さくため息を吐いてその取材を承諾した!
「ありがとうございます!ふむ――密着!外来人の料理人!その裏に迫る。なんてタイトルで――」
面倒事にならなければイイケド。