「これはスープみたいね」

「……」

「あら……この肉、味しそうだわ」

 パチン!

「……何するのよ」

「つまみ食い禁止」

「何よケチ」

「後でたんと食えるからいいでしょうに」

「私は『今』食べたいのよ」

「知らんよ」

 パチン!

「……痛いわ」

 

 

 

 

 

 

 


 八雲紫。通称スキマ妖怪。

 彼女が原因でこちらに来たのだけれども。僕としては、そのことに関して別に怒ってもいない。あちらには未練もないし、仲の良かった友達も少ない。

 店長には申し訳ないけれども、あちらとこちらで言ったら絶対にこちらのほうが充実している。だから向こうへ戻ろうという気はない。

 両親がまだ生きていたのなら話は別だったかもしれない。その店を継ぎ己の職人技術を高めていく。

 そういった生活があったかもしれない。

 だが、今僕はこの幻想郷で店を持って悪戦苦闘しながらも店を大きくさせようと、僕の料理を食べてもらおうとしている。

 この時が一番の幸せなのだ。

「何か、手伝うことはありませんか」

 八雲紫さんを追い払い少し経つと尋ねてきたのは綺麗な女性。確か、八雲藍さんと言ったか。だがやはり尾があり人とは違う『何か』が感じとれる。彼女も妖怪なのだろう。

「いえ、お構いなく。貴方も座って待っていてください」

 笑顔で言うが何か困ったような笑みを浮かべた。

 彼女の尾が左右に揺れる。

 しかし、すんげーモフモフしてそうだなー

「藍〜いいのよ。春菊が全部やってくれるから、貴方もたまにはまっていなさい」

 パチン!

 スキマから伸びた手を弾く。

「私の境界が弾かれた……!?」

「つまみ食い禁止」

 何やら驚いている様子だがすぐさま八雲頬をふくらませる。

「……早く作りなさいよ。どんだけ私が腹を空かせていると」

「知らんよ」

 パチン!

 しつこい。

 

 

 

 

 


 八雲家にある食べ物は豊富であった。塩はたんまり。岩のりやなんと海鮮物までもが揃えてあった。彼女が向こうへ行き来きできるからであるだろうか?

 ちょっぴり羨ましい。

 分けてもらおうとも思うが如何せんこちらでは生肉はおろか、ましてや海鮮物など保存が極めて難しい。

 焼けばどうにかなるだろうが。

 ともかくとして、八雲家の保存庫にはかなりの食料がある。種類様々な食べ物を目の前にどの料理を作ろうかと逆に頭を悩ませたほどだ。

 と、いうかこれだけ向こうと変わらない食料を持つのであらば当然向こうと変わらぬ食を作れるということだろう。ならば何故僕を呼ぶ必要があるのだろうか。

 僕がプロだから?

 ……考えるのはよそう。今は料理を作ることだけに集中する。

 結局として選んだ料理はガーリックステーキとカボチャのテリーと夏野菜のたっぷりスープだ。

 ここ幻想郷では和食が多い……というか和食しかない。だからこれだけ豊富な食料があるのだから少しフランスチックな料理を作ろうと思ったのだ。
 
 まず、かぼちゃは皮を捌き1cmの厚さにカットする。フライパンなどでバターで炒めた後に紙で油をきり、塩、胡椒を少々。型にラップをひき肉を詰めてラップで包み、軽く押さえて形を整えた。

 にんにくはスライス、パセリは微塵切りにする。

 鍋に酢、蜂蜜を入れてトロリとするまで煮詰めた。

 本当はバルサミコ酢があればいいのだけれども、さすがにそんな調味料は置かれてないか。

 牛肉に塩、胡椒をしてフライパンに油(オイル)、バターを入れて熱していく。

 さぁ、ここからが難しい。

 本来の手順としては両面は一気に強火で焼いて表面に焼きをいれた後に中の中心が温かくなるまで焼いて少し休ませるのが常識。

 だが、これはキッチンコンロではない。当然火の細かな調節なんて出来るはずもない。

 そういえば、ここに来たときに火の調節が一番難しかったなー。

 普通より少し強い程には調節しているために、僕はスピード勝負に出た。

 中火にしたときにじっくり焼くのではなく、最初から強火で焼いて中心も温めることにする。

 『温める』わけであって『焼く』わけではないためにそこの所は僕の目に掛かってる。
 
「よっ!」

 素早く焼きあげて肉を別の皿に移す。その温みが落ちないように焼き石を置く。

 鍋にオリーブオイルを入れて、にんにく、唐辛子の輪切りを入れて火にかける。にんにくがカリカリになってきたら塩、胡椒をしパセリを入れて手早く混ぜて春菊自家製ソースで仕上げる。

ソースの完成。いい匂いだ。

 先程のかぼちゃ型から取り出してラップごとカットし、お皿に盛りつけてラップをはずす。そして、スライスアーモンドと荒く砕いた粒胡椒をのせる。そして肉をカットしお皿に盛りつける。

 後は先ほどのソースを掛ければ完成だ。

 後は夏野菜のスープか。

 玉ねぎ、赤ピーマン、なす、まっしゅるーむ、ズッキーニを1cm角に切る。オイルで炒め、やはり塩胡椒。

 にんにくは包丁などでたたいて荒い微塵切りに。

 うぉ……目がぁ……。

 飛び散るにんにく汁に目の痛みが伴う。これって確か包丁を熱すれば大丈夫なんだっけ?

 ……本当か?

 まぁいいや。次だ次。

 先程のにんにくをオイルで炒める。色づいてきたら豚のミンチも一緒に炒める。そして塩胡椒。

 それらすべてを鍋に移してチキンブイヨンを入れて火にかける。沸いてきたらアクを取り、15分程度煮込む。肉とか冷めちゃうから並行してやればベストなんだけどもキッチンが狭く、それができない。

 トマトの角切りを入れて煮てそして我らが塩胡椒。

 オクラは塩ずりして熱湯で10秒くらい。

 長芋は1cm角に切りオイルで炒める。輪切りしたオクラとお皿に盛る。

 そしてスープを注げば完成!

 いやーフランス料理って大概が難しいけどコツをつかめば簡単にできちゃうもんだよね。

 さて、ようやく出来たので、テーブルに持っていく。

「出来ましたよー」

「あら、ようやく?……美味しそうじゃない」

 うぉ!ビックリした!

 いきなり現れるなよ。僕は少し驚きされど人数分をテーブルに素早くおいた。

 片手に皿を何皿も持つのって少しコツがいるんだよね。

 うちは基本がフランスであったりイタリアであったり外国の料理が多い。僕は作る側であるというのに何故かウェイトレスの心得を叩き込まれた。

 なんでだよ。
 
 父と母は僕を万能機にしたて上げるつもりだったらしい。旅館に修行に行かされ、フランス料理とウエイトレスの心得を学ばせるためにフランスの知り合いに預けてフランスで1ヶ月程基礎を叩き込まされるし。

 と、いうか1ヶ月という短い期間で少しはマシかな?と言わせるようにさせる僕も大概すごいと思う。

 なにせ相手は3つ星級だからなっ!すんげー厳しかったよ!ふざけんな!僕の春時代を返せ!

 ……まぁいいや。

 兎に角すべての料理を運び終わり、紫さんが皆を呼んだ。僕も席に座る。僕も腹が減ったのだ。

「美しいですね」
 
 あぁ、藍さん!貴方は中々にわかってらっしゃる。そうよ!フランス料理は見た目も大事なのよ!

「さぁ、よければ食べてください。味は俺が保証します」

「ふむ。では頂きましょう」

「頂きまーす!」

「頂くわね」

 元気よく声にだすのは橙。可愛らしい子猫のようである。

 ……実際、本当に猫だが。

「これは、美味しいわね」

「そうか、そいつはよかった」

 本当に驚愕したように紫さんが僕を見る。

「プロは伊達ではなかったようね」

 いえいえ、テーブルマナーを知っている貴方も凄まじいと思いますけれども。

 今回はそんな堅苦しいのではない、が。一応は基礎にならった。料理の分だけのフォークとか、ナイフとかそんなのではなくただ綺麗に並べただけだ。

 橙とか楽に食べれるようにね。テーブルマナーとかは見た目、そして客観的に見て綺麗にみえるけども、どうしても堅くなってしまう。

 僕は自由に楽しく丁寧にがモットーなのだ。

 確かに、それなりであればフランス料理はテーブルマナーに気を使わせるけどもそこまでのコースも作ってないし。

「藍しゃま、肉が切れないよ」

「あぁ、橙。これはそう切るのではなく……」

 目の前でなごなごとした雰囲気が漂う。

 ふむ、スキマ妖怪として恐れられた八雲もなるほど、偏見であったな。僕は肉を口に運びながらそう思った。

 ふむ。やはり美味い。