「おう、春菊!おはようさん」

「春菊さん、おはようございます」

「春菊―キノコチャーハン頼むぜー」

「春菊―お酒―」

「春菊、次の宴会だけれども……」

 僕の名前は大貫智也だ!

22話「卯の花」

 八雲家の謎の拉致および料理提供を行った後、再びスキマにて春菊に戻ってきた。相変わらず売上は上がったり下がったり。元値というか、原価というか、材料費というか。そういったものはほぼ0であるために、少なからずは儲けてはいる。

 客の量も変化が激しいので暇なときもあれば忙しい時もある。

 今は前者だ。昼にも関わらずあまり客が来ていない。こう言った間であっても店を綺麗にすることは怠らない。

 店の綺麗はその食料の衛生さを物語っているからな。トイレが汚い学校は大概が汚い学校と同じようにだ。

 古い扉が開かれて音を立て客が入ってくる。

「いらっしゃい」

 声を掛けて僕はハッとした。

 なんというか、美しい人であった。姫様もかなり美しい人であったがこの人はなんというか美人である。綺麗な美人であるのではなく、母性本能がありふれているというか、男心をくすぐるようなお人だ。

「やぁ、店主。酒とつまみをいいかい?」

「はい少々お待ちを」

 僕が急いで厨房に駆け込み、手早く料理を行うと彼女がカウンターまで身を乗せてきた。

「店主があの『春菊』かい?」

「え、まぁ、そうですけど」

 僕は大貫智也ですけど。

「文々。新聞に載っていた店に興味があってね。ちょいと寄らせてもらったよ」

 話好きなのだろうか、笑顔でこちらに語りかけてくる。

「ほい、できましたよ」

「お、早いねー」

 酒は上等な物を。肴は生ハムと枝豆。そしてガーリックチャーハンだ。酒の本来の味を楽しむために、またその辛さと合うようにと生ハムと枝豆を用意した。

 チャーハンは以外と酒と合う。それに今は昼だ。昼食も兼ねて良いだろう。

 春菊には一応はメニューがある。壁に掛け立てる札にそれらが書いてあるのだが、かなり大雑把に注文する人が多い。今の彼女みたいに大概が酒に合うやつと言った注文をしてくるので、こちらとしては日々酒に合う肴を用意しなければならない。

「おぉ、これは美味い!」

 どうやら喜んでくれたようだ。

 チャーハンをほうばり、酒を飲む彼女に僕は微笑んだ。

 こう、姫様は黙っていれば本当に『姫様』という感じがするけれども、彼女はどちらかというと『姐御』って感じがする。

「どうだい、春菊の店主も一杯」

「まだ営業中ですよ」

「そんな堅いことを言わずに、ホラ」

 ポンポンと、自分の隣に手を置く。

 まぁ、今は客もいないしちょうど暇をしていた所だ。軽く嗜むていどならいいだろう。

 僕は一つ、頷いて彼女の隣に座った。

















「いや〜ハハハハ、春菊は面白いね〜」

 どうしてこうなった……。

 彼女――小野塚小町さんに勧められて酒を飲んでいたが、如何せん彼女がハイスピードで飲むものだから思わずそれに合わせてしまった。

 さすがにこれはマズイと、席を立つ。

 そして店の看板をしまい『営業終了』の札を掛けるとまた彼女の隣に座った。

 こんな状態で営業なんてできやしない。だったらトコトン飲もうと思った。

 まさにダメ人間である。

 最初は彼女に酌してもらい、そして彼女の愚痴や面白い世間話をしていたのだが途中からヒートアップ。そして営業終了の札をしているのにも関わらず、やってくる阿呆もいるのでそいつらも巻き込みさらに歯止めがきかなくなる。

 もういいや、と僕も完全お手上げ状態である。

「ハハハ、春菊はやっぱり面白いぜ」

「確かに、この顔とかwwww」

 おい、酔っ払い共、やめろっ、顔を引っ張るな!この鬼!

 あれか、お前らは酒の匂いでやってくるのかこのアル厨め。



















 

「失礼するわよー……ってなにこれ」

「やぁ、博麗の巫女さん!今、俺はちょっと忙しいものであるから、要件なら手みじ「あっちむいてホイ!」グボァ!」

 勢い余って来客者の所へ転がり堕ちる。

「よし!勝った!一気飲みだぁ!」

「ちょ!おまっ、あれは反則だろ!」

 あっち向いてホイと同時に指で頬を殴るとか、強制的にあっち向いちゃうじゃねぇか!

「……春菊?」

「なんだい、霊夢。さっきも言ったが俺はめちゃんこ忙しい。要件なら短く―

―いや君もゆっくりして行こう。ほら、ソコヘ座って!」

 僕の勢いに余って霊夢も呆れながらも席に座った。フフ……これで僕も少しはラクができる。

 この酔っ払い3人を相手するのはどうにも限界だ。なにやら勝手にゲームを始めて負けたら一気飲みとかいうし。

「ほら、春菊!罰ゲームだよ」

「小町さぁん!一気飲みはですね、急性アルコール中毒の危険が――」

「なんだい、男なら黙ってやりなよ」

「そうそう、だいたいこれくらいのアルコールで一気したって大した事ないよ」

「そうそう」

「えぇい黙れ!この死神!鬼!魔法使い!俺は普通の料理人だぞ!」

「私も普通の魔法使いだぜ」

「世間の許容範囲超えてんだよ!」

 霊夢もなんか言ってやってくれ!

 僕が霊夢に視線を送ると先程まで、面倒くさそうにしていた霊夢が酒を飲みながら平然と

「私もいけるわよ」

 そうそう、まったくこれだから――。

「駄目だ……こいつら……早くなんとかしないと……」

「なぁにぐずぐず言ってるのさ!さぁ、一気!」

 途端に始まる一気コール。

 えぇい!わかったようやればいいのだろう!

「南無三!」

 うぁ、なにこれ、めっちゃ喉痛い!熱い!てか焼ける!だが、喉を必死に動かしてそれを飲み干す。

 ぷあぁ!

「どうだ!」

 あーヤベーすんげー頭痛い。フラフラする。

「おぉ!いい飲みっぷりだね」

「流石春菊!」

 ふふっ、そうだろう、そうだろう。もっと褒めたまえ。

「よーし続いていきましょうジャンケンポン!」

 チョキ←小町

 チョキ←萃香

 チョキ←魔理沙

 チョキ←霊夢

 パー←僕

『あっち向いてホイ』

 全方位とかマジ勘弁wwww