今朝、5時を回ったところで僕の体内時計が起きろと鳴り響く。それに純粋に従って僕は体を起こした。

 魔理沙の家にはベットは一つしかないために、僕はソファで寝ている。さすがに魔理沙も自分のベットで寝ろなんて言えるわけがなかったのか、ちょっと困ったようにそしてすまなさそうに笑っていた。

 そんな魔理沙のソファで寝て1日。僕は少し痛む背中を叩きながら台所に向かった。

 もちろん。朝食作りのためである。

 

 

 


「豌 豆 」

 

 

 

 魔理沙は自家栽培をおこなっている。それは庭を見れば一目当然なのだが、魔理沙の食糧庫にはほぼ野菜類で埋め尽くされている。

 それは、ベチタリアンなのか。それともここでは野菜しか採らないのか……。
 
 僕は米を先に焚きながら朝食の準備に取り掛かる。

 パンも一応あり、野菜があるのだがら今朝はサンドイッチにしようかと思った。でも、味噌も納豆もあったので今朝は和風でいこうと思った。

 豆腐もあるので、豆腐味噌汁を作ろうと思う。豆腐のにがりは塩から作られるために、この幻想郷では結構の値が張るもので、最近ではあまり手を出してなかった。

「魔理沙め、あいつ結構なもの持っているではないか」

味噌汁と、それと納豆を食卓に並べる。そこにごはんを入れれば完成なのだが、なんか物足りない。川魚でも入れるか?いやしかし。納豆に魚は僕的に合わなさそうだし……。

ちょっと、周りを見渡して何か考える。

ふむ……ほうれん草を使ってみるか。

まず、最初にほうれん草は2cm程度の長さに切る。昨日に使い損ねた余りの卵はざっと溶きほぐし、みりんと水小さじ2くらいを加え混ぜる。

フライパンにサラダ油を熱し、バターを加え、ほうれんそうを中火でさっと炒める。卵をを流し入れて大きく混ぜ、半熟状になったら、しょうゆを鍋肌からまわし入れる。

 うし、いい感じの匂いになってきた。

 ちょっと味が薄いような気がしたが、これくらいでいいだろう。

 ほうれんそうの半熟卵焼きを器に乗せて食たに並べる。

 うん。見栄えもいい。我ながら完璧な作りだな。

 現在の時刻、6時半くらい。魔理沙はまだ起きていない。もしかして遅く起きるほうなのかな?

 と、少したったら魔理沙がねむたそうに出てきた。

「おはよう……」

「おはよう」

 僕は箸やらなんやらをすべて整えて椅子に座る。

「……おぉ!?」

 食卓に並べられた朝食を見て魔理沙が感嘆の意を唱えた。どうやら、ここまで本格的?な朝食は結構久方ぶりらしく、ちょっとうれしそうに笑った。

「冷めないうちにいただこうか」

 僕は魔理沙を座らせて手を合わせて「いただきます」と唱えたあとごはんに箸をつける。

 と、僕がごはんを口に運ぶ前に魔理沙を見た。またもや、笑顔で飯を食べる魔理沙がそこには居た。

「美味しい?」

「おぉ!めちゃくちゃ美味しいぞ!コレ!お前は料理人か何かか?」

「……一応は店を持っている料理人です。ってか、最初の自己紹介で言ったでしょ」

 そうだったか?という顔をされ、僕はひそかな溜息を吐く。まぁ、確かに赤字で店の経営が困難な今の状態を背負って自信満々に「春菊の店長です!」なんて言えるはずもない。

 ちょっとした世間話で朝食が盛り上がったところで、僕はふと思い出した。

 あれ?僕って山菜採りに来たんだよな?

「どうした?」

「あ、いや、ほら、俺って山菜を採りに来てたんだよなーっと思って」

「お前、この辺詳しいのか?」

「い、いえ……」

「それなのに、一人で山菜採りに出かけたと」

「そ、その通りでございます」

 段々と強張ってくる魔理沙の顔に僕は何故か敬語を使っていた。

「……はぁ〜」

 溜息をひとつ吐いて、箸を置いて僕に指を突き刺す。

「まぁ、いい。お前だって、もう二度とひとりで山菜を採りにいくことなんてしたくないだろ?」

 まぁ、そのせいでちょっと危ない目にあったからね。

 僕は頷く。すると、ちょっと満足そうに頷き、お茶を飲む。

「そういえば、魔理沙の食糧庫見たけどかなり野菜があったね。ベチタリアンなの?」

「ん?んーまぁ、野菜は好きだがさすがに野菜が主食なんてことはないぜ。ただ、ほら、ちょっと食えそうな物があるとついとっちゃうんだぜ」

 恥ずかしそうにそう彼女は言うとまた食事を再開した。僕はその時にふとあることを思いついた。

「なぁ、よかったら俺と契約しないか?」

「契約?なんの」

「俺の店は赤字でね。食材すら買えない状態に陥っていて、その食材探しに山菜を採りに行ったんだけれども。もしよかったら君が栽培する野菜や偶にとるその山菜を俺に売ってくれないかな?その代わりに代金や何か君にしてあげるって契約。あ、勿論俺ができる範囲で」

「……」

「どうかな?」

 彼女は一瞬考えたそぶりを見せたけれどもすぐに頷いてくれた。

「あぁ、いいぜ。ただしこっちの要望は金じゃなくて週に何度かあんたの料理を食べさせてくれるだけでいいぜ」

「えっ……そんなんでいいのか?」

「構わないぜ。だいたい、私が拾う山菜や栽培している自家農園だってほぼ趣味みたいなものだし。どちらかというと私、そんなに野菜は食わないほうなんだぜ。いっつも途中で腐って捨てるからな。むしろ使ってくれるなら有難いことだからな」

 と、言って魔理沙は最後のごはんを掻き込む。

 それなら、市で売ったほうがいいのでは?と思ったりする。でも、僕の考えは魔理沙にはわかっていた。

「あぁ、市ならダメだぜ。なんたって私が採る山菜やらなんやらは魔法の森近くでとれたものだからな。誰も買ってくれないぜ」

「別に魔法の森でとれる山菜には人に有害な物質が入っているわけじゃないんだろ?」

 むしろ、食べてみて普通に市でとれる野菜よりうまいと感じた。

「もちろんだぜ。むしろここ周辺の野菜はいい土に恵まれているから通常より豊富に育つし、美味いんだぜ。ただ、採れるところが問題なだけ。お前だってこの野菜が毒沼から生えていたものだって知ったら食いたくないだろ?」

 確かに……。

「だから、市では売れない。嘘ついて売ったってすぐばれるぜ?ここの野菜は少々独自の形態をしているからな。……そんなこんなで、どうせ全部食えないし、捨てるだったらお前にやったほうがいいだろ?だから、その契約。乗ったぜ」

 ごはんをすべて食べ終わり、魔理沙は手の甲で唇あたりを拭う。

「ごちそうさん。おいしかったぜ」

「あ、お粗末さまでした」

 僕の分もすっかり食べ終えて魔理沙は手を差し伸べてきた。

「春菊、契約成立の握手だぜ」

 僕は頷き、そして魔理沙の手を自分の手と重ねる。

 魔理沙の手は、こちらがハッとするほど柔らかく、温かく、そして小さかった。

「よろしくたのむぜ春菊」

 彼女に笑顔が咲いた。