結論から言ってしまえば、魔理沙、萃香の助けもあり春菊は一ヶ月の期間を経てついに赤字を免れた。
だが、決してそれが意味すること=『客が来た』と解釈しないでほしい。僕が厨房に立ち、如何に天才的な腕を奮い10人が10人ともあまりの旨さに失神していしまう程の味を皿の上という小さなスペースの上に載せても、未だ誰も(数名を除く)その古臭い扉を開きそのすこし削れたイスの上に立ち箸でその料理を口に運ぶことはない。
そう、赤字を免れながらも春菊はまだ客はあまり来ない。それなのに、何故赤字を免れているのか。
いくら料理のメインである肉や野菜。酒などがほぼタダで届いてこようとも、調味料やらなんやらで持ってかれる。0−10が0−0になっただけ、相変わらずもその数値が『+』になることはない。
あ、いや……少なからず儲けは出ているのか?
いやでもそれにしたってこっちの肉体的な問題を見ればどう考えても『0』だろう。
さて、その状況下でいかにして僕がこの春菊の赤字を『0』に変えたか。
それは僕が待つのではなく、僕が『出る』ことにしたのである。
「御手洗団子」
「また……お前らか……」
と、言いつつ店の玄関を見るとおなじみの顔が4つ。自称魔法使い、魔理沙。自称鬼、萃香。自称不老不死、妹紅。自称、半獣慧音。
どれも、少なくても僕にとっては『トンデモ』な人達。彼女らは僕の恩人でもあるわけだが、そんな顔が毎日見ればもう慣れるというわけでして、別に深く嫌な意味で言ったわけではないがたまには違った顔が来ないかと思わないでもない。
「春菊〜キノコチャーハン」
魔理沙が座った時に声をかける。
「はいよ」
と、座って数秒もしないうちに料理をテーブルに置く。その他もあらかじめ用意された料理を運ぶ。
「今日はちょっと忙しくなりそうなんだ。慧音や妹紅はともかくとして、お前らはそれ食べたらすぐ退けよ」
「なんでさ」
萃香が酒片手に不満そうに唸る。
僕は用具片手に笑う。
「ちょっとな」
いかにしてこの赤字を脱出すべくか。それを一晩考えた。まず最初に、最初よりもかなり食材面に関しては余裕が出来た。共に魔理沙、萃香のおかげともいえる。
今まで気を使っていた食材面の心配がなくなると、では赤字は心配ないのでは?と思うかもしれないが、それは間違えであった。
食材だけではない。この春菊はそれこそ、向こうみたいにやれガス代がどうだの。税がどうだのというものは心配は要らないがもっとも一番に問題視するところは『客』である。
どうやっても人があまり入らないのである。こちらがどんなに料理を出そうが向こうが食べてくれないのではどうしようもない。
さて、困ったと嘆いていると、ふと思ったことがあった。爺さん……前の店だって客はそんなに入ったようにはならなかった。
それなら何故に経営が成り立っていたのか。と考えた。
色々な可能性を考えて僕は爺さんの営業ノートを見てみた。そこでは経費などの数字の羅列や意味不明な言葉まで書かれている。それをじっくりみた後に僕は無性に腹がたった。
そう、爺さんが営んでいた春菊は店の客がない代わりに自分の体を存分に使って赤字を免れていたのだ。
……いや、決してそっちの意味ではないですよ。
つまり、あの爺さんは食材やらなんやらを全て自分の手で育ててそれを食材としていた。この営業ノートに家畜と収穫の書記が書かれているためにそれがわかったのだが、それだけではない。この爺さん。出前出張や屋台まで開いていたのだ。
爺さん自身がこの場所がとても悪いところにあることは知っているらしい。どこの町や村でも人目がつきにくい場所は必然と生まれてくる。春菊の近くには寺子屋があるが、それを始め数々の娯楽施設があったり、大規模な公共施設があったりする。人の活気は多いがそれが逆にこの場所を縮めこませているのだ、と僕は推測する。
もちろん、なにも路地裏とかそんな場所に看板を掲げてはいない。ちゃんと見つけようと思えばすぐ見つかる。
そう……いわば壁。そこにあるのは知っているが、誰も壁などを見つけようとはしない。そんな感じが今の春菊。
さて、そこでこの爺さんはどうしたか。この営業ノートでは月に何回か利益が出て、金が一番動く日がある。
おそらくは月に何回か屋台を出し、そこでちょとした出前でもやってたのだろう。
ならば、僕もそれを参考にさせてもらう。こういっては極端で大げさだが、僕は自分の料理が世界で一番おいしいと思っている。当たり前だろう。何故、自分の作る料理が「おいしい」と自信が持てないか。僕は自信があるからこそ人に料理を出してお金を貰っているのだ。仮に自分の料理はマダマダと思う料理人が居たとしよう。これは僕の――僕の家で考え方だが、その人にならばいいたい。
自分がおいしいと思えない料理を何故客に出すのか、と。
僕は僕の料理がおいしいと思っている。だからこそ、時に「これを加えればもっとうまくなる筈」「この調理の仕方ならもっともっと美味しくなる筈」と追求を重ねるのだ。
その料理を食べて人がどう思うのかはその人の自由であるが、少なくても僕は僕自身がおいしいと思った料理しか出さないである。
しかし、あの爺さんよくもまぁ一人でここまでやってきたなーと思う。屋台の準備だって老体一つでは結構厳しいものがあると思うし、それに出前だってかなり体に効くはずだ。
僕と同じようにここの住人に助けれたのだろうか?
僕はもう一度営業ノートを手に取る。
この分厚い本のようなノートにはこの春菊の開店当初から死ぬまでの間の経済状況とちょっとした日記みたいなのが載っている。
過去をさかのぼるのは面白いもので、ついつい読んでしまうが驚いたことにこの春菊は最初はそれなりに儲かっていたらしい。
今の儲けの5倍はたたき出している。
それなりに常連さんもいたようで(常連覧にかかれている名の人物は今までやってきて訪れてきたことはない)春菊は最初から最後まで売れない店ではなかったらしい。
「おーい春菊―これどうするんだー?」
外で魔理沙の声が聞こえる。魔理沙、萃香にはそれぞれ屋台の準備を手伝ってもらっている。
「おーちょっと待ってろー」
僕は、営業ノートを閉じて外へ向った。
「さてっと……」
屋台の準備が出来て僕は手ぬぐいを巻きつける。
「始めようか」
初の表舞台……なのだろうか。外で立つ厨房というのは少し不思議な感覚である。
時刻を確認。ただいま正午。では始めよう。
息を吸い、天にほえる。
「春菊―!!屋台始めましたー!!この幻想郷では見られない珍味はいかかですかー!!」