博麗神社宴会 「春菊」

先付け 順菜と豆乳こんにゃくの三杯酢
 酒 肴 鶏肉の塩焼きと枝豆
 造 り 岩魚の蒟蒻のカルパッチョ
 揚 物 春野菜とザンギ(唐揚げ)の黒酢風味
 台 物 豚のしゃぶしゃぶ
 食 事 ほうとう風 うどん鍋

 

 

 


「蒲鉾」

 

 

 宴会は賑やかに進行していった。静かに酒と料理を楽しむ人(?)も入ればひたすら酒を傾けて飲水のように飲んでいる人(?)も居る。

「ですから、こうしてこの豚を箸で持ってこのお鍋で軽くゆすいでくれますと、ほら、赤身が消えたでしょ?ここで春菊特製のタレを着けて召し上がってください」

 しゃぶしゃぶのやり方を教えながらも僕は周りの様子を見る。どれもこれも皆人には見えない者がいっぱいいる。角が生えていたり、羽が生えていたりと、様々だ。

 大半がいきなり現れた僕の堅苦しい挨拶に若干引き気味だったが僕が笑顔でそれを飽和していくと皆もノリ始めた。
 
 さて、一通りの説明も終わり僕は手持ちぶさとなった。

 後かたずけが残っているために帰るわけにもいかない。あとお代ももらっていないし。

「智也〜飲もうぜ〜」

 もうすでに出来上がっている鬼さんの萃香は酒片手に僕に寄ってきた。

「鬼と飲むときは一旦死を覚悟しろって親父さんが言ってたからヤダ」

「ぶーなんだよーけちー」

 本当に死にかけそうなので萃香には悪いが断る。と、言うか僕はここに宴会の準備をしにきているわけであって飲みに来ているわけではない。

「別にいいと思うぜ」

 僕が驚いて見てみると魔理紗が顔を少し頬を染めて酒を傾けていた。もう出来上がているらしい。

 何を、とは聞かなかった。どうやら僕の考えは筒抜けらしくそう言った魔理紗は軽く微笑むだけで何も言わなかった。

「……では、お言葉に甘えて」

 魔理紗の隣の霊夢を見る。微かにうなづいているように見えた。

 

 


 

 縁側に場所をとって僕もゆるりと酒を傾ける。親父が強いほうで毎日のように料理についての論を肴に盛り上がっていたからそれなりに強いほうだと自負はしている。

 だが、この日は格別に良かった。酔いが理想的に仕上がるのだ。ほどよい心地よさを感じながら僕は月を肴にもう一度酒を傾ける。

 後ろで楽しい声が上がる。

 どうやら満足してもらえたようだ。料理人にとって客の笑顔は最高のご褒美だから、僕としては幸せだ。

「……」
 
 隣に誰かが座る。魔理紗だろうと思ってチラリと見ると霊夢だった。あの強ばった顔はなく自然と柔らかい顔だった。

 お互い何も言わずに黙って酒を飲む。言葉はない。月を見て、酒を飲んでそれだけ。

 だが、僕は気がつけば霊夢に話しかけていた。

「博麗さんは――」

「霊夢でいいわ」

 言葉を切替されて少し戸惑う。

「――霊夢は俺の作った料理どうだった?」

 そう尋ねると霊夢は一瞬こちらを見た後にもう一度視線を月に戻した。

 酒を傾ける。
 
 やや一息というには少々ながい間があって小さく霊夢は答えた。

「……美味しかったわ」

「……ありがとう」

 恐らくはこの宴会で一番に聞きたかった言葉。僕は小さく微笑んだ。

「おーし、いいぜやろうじゃんか!」

 魔理紗の声が響き何事かと思って見てみるとなにやら萃香と対立していた。

 萃香と魔理紗は互いがにらみあったまま、そのまま庭へと出る。

「お、おい。ケンカはよくないぜ」

 本当にそういう雰囲気だったために僕が思わず止めようとしたところ霊夢に制された。

「まぁ、見てなさいって」

 何がおかしいのか霊夢が笑顔で2人を見守る。他のメンバーを見るとその人たちもなにやら楽しそうである。

 何が始まるのか、僕は立ち上がった腰をおろしたその数秒後にあぁ、と納得したように酒を傾けた。

 つまりは、「弾幕ごっこ」である。

 話によると最後に残った肉を掛けての勝負らしい。

 魔理紗の星の弾幕が夜空に綺麗に映る。

「綺麗だなー」

 一応はケガする危険性もある弾幕だが僕は素直に感想を述べた。

「あら、弾幕を見るのは初めて?」

「慧音に見せてもらったけどここまだ本格的な『弾幕ごっこ』は初めて」

 魔理紗の手元から極太のビームが出る。それを萃香が華麗によけて大きな火の玉を投げつける。

「おぉ……メラ○ーマ」

 弾幕って見る方は綺麗で気持ちがいいけど実際やったらどうなんだろうか?結構危ないような気がする。

「……やってみたい?」

 突如そう言われて僕は霊夢を見る。

「何が?」

「弾幕ごっこ。もしかしたら貴方でもできるかもよ?」

 ……。マジですか。

「……いや、まぁ、俺は遠慮しておくよ」

 酒を傾けてそう答えると霊夢は笑いながら問い返した。なんだろう。酒も入っているからか、随分と柔らかい。

「どうして?」

 黙って上空を見上げる。月をバックに美しい弾幕を放つ二人。とても楽しそうに見える。

「だってさ」

 だからこそ、だ。

「女の子の遊びに男が入るなんて、そんな空気読めないことしたくないしさ」

 そう、『弾幕ごっこ』とは俗に言う幻想郷における『女の子の遊びの延長』なのだ。それこそ、弾幕を操り何かを飛ばしたらかっこいいかもしれない。しかし、これは女の子の遊びであって僕が入るのは無粋すぎる。

 それに、僕は勿論、痛いのも怖いのも嫌いだし。それに弾幕なんて危ないものやりたくもない。

 しかし、ながらよくもまぁ『弾幕ごっこ』なんて危険な遊びを女はやるものだ。だからか、幻想郷の女子が大概が強いのは。

「あら、そう。でも、男なのに弾幕ごっこをやっている人(主に外来人)なんていっぱいいるわよ?」

「それじゃ、こう答えるよ。俺は痛いのも怖いのもやだ。だからやらないってね」

 そう言うと霊夢はあからさまにため息をついて「軟弱ねー」と呟いた。

 その言葉に僕はせせら笑う。

「軟弱で結構。それが本来の人だよ。でも、まぁ基本的に俺は料理人だからさ、そんな(弾幕)の必要ないんだよ」

 それもそうね。と霊夢はまた酒を傾ける。そしてズイと僕に突き出す。

「おかわり」

「はいはい」

 酒を注いでやる。月の光と魔理紗と萃香の弾幕が同じに光り一種の花火になる。

「たーまやー」

 僕の声が遠くまで響いた。